大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和48年(モ甲)147号 判決 1973年6月07日

申立人 亡真野宝四郎相続人 真野フユノ

右訴訟代理人弁護士 古田道夫

被申立人 日本運送株式会社

右代表者代表取締役 大橋實次

被申立人 福利晃三

右両名訴訟代理人弁護士 長谷川豊次

福徳富男

木村達也

主文

本件申立を却下する。

訴訟費用は申立人の負担とする。

事実

申立代理人は、次のとおり申立の趣旨、申立の理由、被申立人らの主張に対する答弁及び反論を陳述した。

(申立の趣旨)

当裁判所が昭和四五年二月二四日になした仮差押決定を取消す。

訴訟費用は被申立人らの負担とする。

(申立の理由)

一、被申立人らは本案訴訟において全面勝訴し、この判決は昭和四五年八月六日確定した。

二、従って、被申立人らは本執行の開始をなすべきにかかわらず、昭和四八年三月九日現在本執行の申立をなさず、他方本件仮差押の申請取下もしないままである。

三、ここにおいて、仮差押命令発付の一の要件である保全の必要性につき、民事訴訟法七四七条一項にいう事情の変更ありというべきである。けだし、被申立人らが勝訴判決を得、これが確定せる以上は、執行文の付与を受け、不動産強制競売の申立をなすか否かはその自由に決し得られるところ、約二年八か月も放置していることは正に保全の必要がないことを態度で表明しているからである。

よって本申立に及ぶ次第である。

(被申立人らの主張に対する答弁及び反論)

一、被申立人らの主張中債務者の死亡、債務者の一般承継人(申立人をのぞく)の相続放棄の事実は認めるが、本執行の進捗を妨げる事態が生じたとの点は争う。

二、(一) 被申立人らが近時に至って本執行の申立に着手したからといって、約二年八か月も放置していたという事実に変りはない。

従って、本件仮差押命令は保全の必要欠缺の故に取消さるべきである。

(二) 本執行が着手された以上、仮差押執行手続はその継続の実益がない。この理由によっても保全の必要はないといえよう。

(三) 本件のように、仮差押債権者が勝訴判決を得たるにかかわらず本執行をなさず、これを理由として仮差押債務者が事情変更による仮差押命令の取消を求め、これに呼応して仮差押債権者が本執行の申立をなした場合、本執行着手の故に仮差押命令を認可維持すると、以下のような幣害をさけることができないであろう。すなわち、仮差押および本執行の対象たる不動産につき、差押債権者の債権に先立つ抵当債権の負担を償ってなお剰余があるごときでない場合、結局競売開始決定は取消さるべき運命にある。しかし、一方仮差押の執行は残されている。相当期間経過後、債務者が事情変更を理由として仮差押の取消を求めても、債権者が開始決定取消となる筋合を承知のうえで競売の申立をなせば、仮差押を維持できる。かくてこれの繰り返しで仮差押は未来永劫その生命を保つことになり、債務者のうける迷惑は計りしれないものになろう。

保全処分は本来暫定的な性格のものであることに思いを到せば、右幣害は容認できないものであること明白である。

他方、右のように結局競売を申立てても、開始決定を取消されるほかない。不動産はもともと仮差押債権の目的外の責任財産なのであり、仮差押命令が取消されても債権者は本来ないものを失っただけで、損失はないことに帰する。この利益衡量の点からも、仮差押は認可、維持されるべきでない。

≪証拠関係省略≫

被申立人ら代理人らは次のとおり答弁の趣旨、答弁の理由及び主張を陳述した。

(申立の趣旨に対する答弁)

申立人の申立を棄却する。

被申立人らと申立人の先代真野宝四郎間の昭和四五年(ヨ)第一九五号不動産仮差押決定を認可する。

(申立の理由に対する答弁及び被申立人らの主張)

一、申立の理由一は認める。二のうち被申立人らは現在本執行の準備中である。三は否認する。

二、民事訴訟法七四七条によって仮差押命令が取消されうるのは、仮差押が本執行に移行する前に限られる。

ところで、仮差押から本執行に移行する時期については問題があるも、債務名義成立(判決確定)のときと解され、仮差押は本執行を保全するためのものであるから、判決が確定したときに本執行に移行したとみるべきであり、すでに本執行に移行した以上、仮差押命令の取消は無意味であり許されない。実務では仮差押とは別個に競売申立の登記をしたうえで手続を進めているが、これは手続上の便宜性、迅速性等の考慮から右のような取扱いになっているだけのことであって判決確定のときに本執行に移行すると解することの妨げにはならない。従って判決の確定は当然に仮差押命令を取消す理由にはならないというべきである。本件の場合、本執行の手続が途中でストップしている状態であるとみるべきである。

なお、本件においては債務者の死亡、債務者の一般承継人(申立人をのぞく)の相続放棄等、本執行の進捗を妨げる事態が生じ、現在競売開始決定に至っていないが、手続を進めているので早晩開始決定になること必至である。

以上のように、被申立人らが手続上も本執行に着手した以上、申立人は本件仮差押命令を取消す法的な利益は皆無といわなければならない。

立証≪省略≫

理由

被申立人らが本件仮差押の本案訴訟において全面勝訴し、本案判決が昭和四五年八月六日確定したことは当事者間に争なく、被申立人らが本執行(競売開始決定)の申立をなしていないことは被申立人ら代理人の明らかに争わないところである。

申立代理人は被申立人らが本執行の開始をなすべきにかかわらず、本執行の申立をしないことは保全の必要性につき民事訴訟法七四七条一項にいう事情の変更ある場合に該当する旨主張するから、この点について考察する。

右の事情の変更とは保全処分の要件たる被保全権利や保全の必要性に関し、現在では発令当時と異った判断をすべき事情の存在することをいうのであるから、勝訴判決が確定したにもかかわらず、本執行に移行しない場合においては、保全の必要性に関して事情の変更あるものと解される。

この点に関し、被申立人ら代理人は債務名義成立(勝訴判決確定)により当然に本執行に移行する旨主張するが、本執行をするか否か、何時するかについては債権者の自由に委ねられているものというべく、本執行に移行するのは本執行申立のときと解するのが相当であり、被申立人ら代理人の右主張は採用できない。

ところで、債権者が本執行の申立をしない場合には、漫然と放置している場合のほか、執行申立の障害となる事情が存し、執行申立をなしえない場合もあり、後者のような場合には、保全の必要性の継続が認められて然るべきである。本件について考えるに被申立人ら代理人は本執行の申立がおくれた事情として債務者の死亡、一般承継人(申立人をのぞく)の相続放棄をあげ、債務者の死亡、一般承継人の相続放棄の事実は当事者間に争なく、≪証拠省略≫によれば、被申立人らは昭和四八年四月一三日債務者の相続人全員につき承継執行文の付与を受けたことが認められる。そして右承継執行文は前記一般承継人の相続放棄の事実の判明により無効となり、現在手続を進めている状況にあるものと推認される。

右認定のごとき事情のもとでは債権者の執行申立がおくれたことにつきやむを得ないものというべく、保全の必要性が消滅したものとは解せられない。

申立代理人は約二年八か月も本執行の申立をなさずに放置していた事実は、近時に至り本執行の申立に着手したからといって保全の必要欠缺が治癒されたことにならない旨主張する。

なるほど、≪証拠省略≫によれば前記承継執行文の付与は、真野宝四郎に対する強制執行のための執行文の付与のとき(昭和四五年七月二七日)より二年八か月余も経過した昭和四八年四月一三日であることが明らかであるけれども、そのことから直ちに被申立人らの保全の意思の放棄を推認することも困難であり、前記のごとく被申立人らにおいて現在執行着手の準備中であることよりみれば、保全の意思、本執行の意思の継続が推認され申立代理人の右主張は採用のかぎりでない。

なお、申立代理人は本執行が着手された以上、仮差押執行手続はその継続の実益なく、保全の必要性はない旨主張する。

しかしながら本件においては前記のとおり執行着手の準備中の段階であるのみならず本執行に着手しても、仮差押より本執行に移行するまでは保全の必要性は継続するこというまでもなく、本執行に移行すれば仮差押の執行はその目的を達して消滅し、仮差押執行手続は終了するわけであるが、右の手続の終了は仮差押の執行が本執行に吸収されるからにほかならず、債務者より取消申立をなしえないこというまでもない。本件について考察するに、本件不動産仮差押は、その対象たる不動産につき将来競売開始決定がなされて、その旨の登記が完了すれば、本執行に移行するとともに、仮差押執行手続は終了し、申立代理人の主張するがごとき開始決定の取消により仮差押の執行が維持されることはありえないのであるから、仮差押が未来永却その生命を保つことになるとの申立代理人の主張は失当である。

以上の次第で、申立代理人の主張はいずれも理由なく、本件仮差押取消の申立は失当として却下すべきである。

なお、被申立人ら代理人は仮差押決定認可の裁判を求めるが、本件は事情変更による仮差押の取消申立であり、仮差押の申請の当否をその審判の対象とするものではないから、仮差押決定認可の裁判をなすべきものではない。

よって、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例